濁ってしまった水晶体を透明に戻せないのはなぜ?
白内障は、目の中の水晶体という組織が濁る病気です。一度濁ってしまった水晶体は、元の透明の状態に戻すことはできず、白内障を治療するには手術をして水晶体の中身を人工の眼内レンズに置き換えるほかはありません。では、なぜ水晶体を透明にすることができないのでしょうか? 今回は水晶体が濁る仕組みについてご紹介いたします。
ピントを合わせる役割をする水晶体
水晶体がどのように濁るかの話をする前に、水晶体がものを見る上で果たしている役割について、簡単にご紹介しましょう。
ものを見るためのプロセス
私たちがものを見るとき、それらのすべては「光」として目に入ってきます。
目に入った光が網膜で像を結ぶには、以下のプロセスをたどります。
1 角膜で入ってくる光を屈折させ
角膜には光を一点に集中させて焦点(ピント)を合わせるために、光を屈折させる働きがあります。
2 光の量を瞳孔で調節してとらえる
瞳孔は、虹彩の中心にある黒い空洞のことです。虹彩は、暗い時には多くの光を取り入れるために広がり、明るすぎるときには光の量を少なくするため狭まります。そうして光の量を調節し、ものを見やすくします。
3 水晶体でピント調節を行う
水晶体は直径約9㎜、厚さ4㎜ほどの透明な組織です。角膜と同じく光を屈折する働きがありますが、厚みを変えることによって屈折を調節することができます。この調節機能によって、遠くからの光も、近くからの光もうまく焦点を合わせることができます。
4 水晶体で屈折を調節した光が、網膜の中心にある黄斑で焦点を結び、像として映し出されます。
網膜の視細胞は光の情報を電気信号に変え、視神経を通して脳に伝達します。網膜の中心にある黄斑は、特に視細胞が集まっており、目に入る光は黄斑に向けて焦点を結ぶようにできているため、ここで視力のほとんどが生み出されています。
目はカメラの機能に例えることができる
水晶体は見たいものにピントを合わせるために厚みを調節し、外から入ってくる光を屈折させる役割を果たしているわけです。
このプロセスは、カメラの機能と似ています。角膜と水晶体はレンズ、虹彩は絞り、網膜はフィルムに例えることができます。
水晶体は無色透明であればこそ、外界からの光をまっすぐに通すことができるため、本来のピント調整の役割を果たすことができます。
しかし、濁りがあると光をうまく通すことができなかったり、光を乱反射させたりするため、網膜に鮮明な像を結ぶことができません。
この「水晶体に濁りのある状態」が白内障の状態です。
水晶体が濁るのは、卵の白身が熱で白くなるのと同じ
水晶体はタンパク質と水で構成されています。
水晶体の中にあるタンパク質は、クリスタリンタンパクと呼ばれます。このタンパク質が無色透明であるために、水晶体はレンズの役割を果たすことができます。
しかしクリスタリンタンパクは、加齢、紫外線の影響、外傷性ショックなどさまざまな要因によって、変性して濁ってしまいます。そして、水晶体から通過するはずの光の邪魔するようになっていくのです。
このタンパク質の変性が白内障の原因です。
目玉焼きをイメージしていただくとわかりやすいかも知れません。
火が通っていない白身は透明ですが、フライパンにかけて熱を加えると白くなります。
タンパク質が変性して白くなった卵の白身は、二度と透明に戻ることはありません。
それと同じことが水晶体の中で起こると考えていただくといいでしょう。
卵の白身と同じように、濁った水晶体を透明な状態に戻すことはできません。
水晶体は透明であることではじめて、ものを見るための大事な役割を果たすことができます。それが濁ってしまうと、うまくものを見ることができなくなってしまい、とても不便になります。
濁った水晶体を、薬や食事療法などで、元の透明な組織に戻せないものかと考える方がいらっしゃいますが、卵の白身を思い浮かべれば、それがとても難しいことが分かっていただけると思います。
唯一の有効な治療手段が、水晶体を人工眼内レンズに置き換える白内障手術なのです。