白内障の手術をすると別の症状も治りますか?
ご相談者様
先日、眼科クリニックにて、白内障の手術を受けることをすすめられました。先生から「白内障の手術を受けると別の症状も治るので、受けたほうがいいですよ」と言われたのですが、どういうことでしょうか?
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白内障手術を検討されているんですね。その先生がおっしゃるとおり、白内障手術は、さまざまな症状の治療につながります。
白内障手術の主な目的は、もちろん白内障の治療です。白内障にかかっている方の水晶体は濁ってしまい、この濁りは進行を続けて、いつかまったく見えない状態になってしまいます。この濁ってしまった水晶体を取り出し、眼内レンズと入れ替えるのが白内障手術です。眼内レンズは、目の中に入れ込むコンタクトレンズと思っていただければいいでしょう。眼内レンズを入れることで、濁った視界がクリアになります。
加えて、白内障手術を受けると、近視や遠視、乱視などの屈折異常を治療することができます。さらに一部の緑内障を治療することもできますし、多焦点眼内レンズを使用すれば老視による調節異常も治すことができます。 -
白内障だけだと思っていましたが、近視や遠視、乱視、老視、一部の緑内障まで……。驚きです。もっと詳しく聞かせていただけますか?
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まず、近視、遠視、乱視の矯正からご説明しましょう。
先ほどお話ししたとおり、白内障手術とは、濁ってしまった水晶体を取り除くかわりに眼内レンズを挿入する手術です。さまざまな種類のレンズがあり、近視や遠視、乱視を矯正することができるのです。 -
なるほど、さまざまな種類のレンズがあるんですね。こちらも具体的に教えてください。
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眼内レンズには、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズがあります。単焦点眼内レンズとは、遠くか、近くか、もしくは中間距離か、どこかの一点に焦点が合うレンズのことです。ですから、遠くに焦点が合った単焦点眼内レンズを入れると、近視だった人もメガネなしで遠くまで見えるようになります。ただし、その代わりに、近くのものはメガネなしではぼやけるようになってしまいます。
近視と同様に、遠視も矯正できます。近くに焦点の合う単焦点眼内レンズを入れればいいのです。その代わり遠くを見るのにメガネが必要になります。
乱視は、トーリックレンズという特殊なレンズによって矯正することができます。 -
近視だけでなく、遠視や乱視も矯正できるというのはすごいことですね。でも、メガネは必要になるんですね。
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単焦点眼内レンズを選ぶのであれば、必然的にそうなります。
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では、メガネなしで生活したければ、単焦点眼内レンズは向かないということですか?
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はい。メガネなしにしたいのであれば、単焦点眼内レンズではなく、多焦点眼内レンズがおすすめですね。化粧やスポーツ、レジャーの際、メガネをかける必要がなくなりますよ。
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それはうれしいですね。先ほど、老視も治せるとおっしゃいましたが……?
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白内障手術では、老視も治せます。白内障と同じように、老視もまた水晶体の変性によって起こるものです。加齢が進むと、水晶体の調節機能が衰えて、近くのものが見えにくくなります。これが老視です。
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老視は年々進行していく症状だと聞きました。
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そのとおりです。年々、症状が悪化していきますから、老眼鏡を持っていたとしても、次々に新しいものに買い替えなければなりません。度の合わないメガネを使っていると目が疲れてしまいますからね。
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老視に効果的なのは、単焦点眼内レンズですか、それとも多焦点眼内レンズですか?
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老視は、多焦点眼内レンズでしか治療できません。多焦点眼内レンズを入れれば、遠くにも近くにもピントが合うようになりますから、老視を治療できたといえるようになります。
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老眼鏡がいらなくなるのは、多くの老視の方にとって朗報ではないでしょうか。ほかにも、白内障手術によって改善できる症状はありますか?
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まだありますよ。先ほども少し申し上げましたが、白内障術によって、一部の緑内障が治療できます。
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緑内障の治療にもなるんですね。こちらも詳しく教えていただけますか?
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緑内障は、視神経が壊れていき、視野が失われていく病気です。日本では失明の原因として緑内障が1位となっています。緑内障にはいくつか種類があるのですが、その中に閉塞隅角緑内障というものがあります。これは、房水が排出される隅角という場所が閉塞してしまうことで発症する緑内障です。
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房水ってどんなものですか? 初めて聞く言葉ですが。
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房水とは、目の中を満たしている水分のことです。実は目の中には常に、一定量の房水が作り出されていて、同じように排出されてもいます。この房水を作ったり排出したりすることで、眼圧が一定に保たれるようになっており、目が球の形を保てているのもそのおかげです。
隅角が閉塞してしまうと、房水の排出路が閉ざされてしまい、房水が目の中にどんどんたまるようになってしまい、眼圧が上昇していきます。眼圧が上昇すると、視神経が障害を受けて機能しなくなり、そのため視野がどんどん欠けていってしまうのです。
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緑内障にいろいろなタイプがあることも知りませんでした。このタイプの緑内障を治療するのに、白内障の手術が効果を発揮するんですか?
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隅角が閉塞してしまっていることが原因の緑内障ですから、治療法としては、隅角を広げて房水が排出されやすくすることが挙げられます。白内障手術は、水晶体の中身を取り除いて眼内レンズへと入れ替える手術です。水晶体は加齢によりどんどん大きくなっていくので、虹彩を後ろから圧迫しています。水晶体の中身を取り除いて水晶体が薄くなれば、虹彩への圧迫がなくなり、隅角が広がるというメカニズムです。
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メカニズムがよく理解できました。
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もし、完全に隅角が閉塞しきってしまうと、急激に眼圧が上昇して「急性緑内障発作」を起こすことがあります。この発作には、激しい痛みや吐き気が伴います。すぐに治療しなければ、急速に視力が低下したり、最悪の場合、失明してしまったりすることもある怖い病気です。
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失明してしまうこともあるんですね。白内障手術を受けていれば、急性緑内障発作を防げるんでしょうか?
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はい。閉塞隅角を治療することができますから、閉塞隅角緑内障や急性緑内障発作のリスクを大きく低下させることができます。
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なるほど。白内障手術には意外なメリットがあるんですね。教えてくださってありがとうございました。