認知症を患っている場合、白内障手術は受けられないのでしょうか?
ご相談者様
母が認知症なのですが、白内障の手術を受け入れてくれる医療機関が見つかりません。認知症患者の白内障手術は基本的に無理なのでしょうか?
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残念ながら、認知症の患者さんの手術を引き受ける眼科が少ないのは事実です。白内障手術は局所麻酔で行うのが基本で、患者さんは覚醒しています。認知症の患者さんは手術中にじっとしていないので、場合によっては重篤な手術合併症を引き起こしかねない。そう見られているのですね。そのため、断る医療機関が多いと思われます。
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では、局所麻酔ではなく、全身麻酔で行ったら問題ないのでは?
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そういう考え方もありますが、身体への負担が大きくリスクを無視できません。特に高齢者では認知症とあわせて、循環器疾患などのいわゆる重篤な持病を持っている方も多く、それへの影響が懸念されることも、手術を敬遠される大きな理由となっています。
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そういった理由があるのであれば、やはり認知症の人は白内障手術をあきらめざるを得ないのですか?
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難しいところですが、かつて私は85歳の軽度認知症の方の白内障手術を担当したことがあります。検査をしてみると、なるほど白内障はかなり進行している。では認知症の状態はどうなのかが気がかりで、検査中の挙動や問診への受け答えを観察しました。そして、手術中も動かずにいられそうだと判断し、通常の局所麻酔による手術を実施しました。このことから軽度認知症では十分に白内障手術を行える、という実感を持ちました。ただ、その感想はあくまでも私個人のもの、一医師のもので、普遍化できるものではありません。
しかし、それ以降も当院ではたびたび軽度認知症のある方の手術を引き受けています。 -
認知症の人の手術ができるかどうかは、医師次第ということですね。
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そうですね。認知症の患者さんは手術中に動くという心配だけでなく、手術前後の管理も大変で煩雑です。そのことが医療機関の負担になり、敬遠されることが多いのです。
その一方で、近年、軽度認知症や高齢者うつによる偽認知症(認知症に見える症状)では、白内障手術によって日常生活を営む機能(ADL)が改善することが相次いで報告され、注目されています。高齢者で、認知症の傾向がある人にとって、見るという行為の刺激がいかに脳機能にとって大切か、ということですね。 -
そういう報告があるのですか。知りませんでした。なおさら、母に白内障手術を受けさせたくなりました。
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手術で生活の質が改善するかもしれません。ぜひ、再度ご相談してみてください。