白内障お悩みQ&A

多焦点眼内レンズがオススメと聞きますが、本当にデメリットはないのでしょうか?

ご相談者様

最近の白内障手術は「多焦点眼内レンズ」が人気で、雑誌やネットでも多焦点をオススメする記事が多いように感じます。でもあまりにメリットばかりを聞かされると、つい「本当に?」という患者心理が働きます。実際、デメリットはないのでしょうか? 

  • あまりにも「うまい話」だと、かえって疑いたくなるものですよね。現在ではかなり改善されていますが、かつては「デメリット」ともいうべき弱点がありました。
    多焦点眼内レンズが日本で認可されたのは2007年のことです。初めて認可された多焦点は「2焦点眼内レンズ」で、それまでは単焦点眼内レンズしかなく、はっきりと見えるのは「遠く」か「近く」かのどちらかだけでした。そのため、遠近ともによく見える「多焦点眼内レンズ」は画期的で、とても驚いたものです。
    ただ、当時はいくつか弱点もありました。たとえば「グレア・ハロー」といって、夜間は街灯や信号が眩しく感じやすい現象や、単焦点にくらべてコントラストの感じ方が幾分低下するため、くっきりと見えなかったり、見え方の質が若干劣るのではないかと指摘されたりもしました。このように明確な長短があったことに加えて、当初は製品数も少なく、製品ごとの性能にもそれほど差異がなかったので、「どんな患者さんも満足できる眼内レンズ」ではなかったのです。昔はぴったりの度数を用意できなかったことから、強度の近視や乱視がある患者さんにはオススメできませんでした。また、あくまで選択肢の1つとして示すにせよ、患者さんのライフスタイルによってはかなり慎重な説明が必要でした。わかりやすい例を言うと、ドライバーを生業としているケースです。昔の多焦点だと、仕事をするうえでグレア・ハローが影響する場合があるので「夜間は眩しさを感じやすいことがあります」「目の疲れを感じやすい可能性があります」としっかりお伝えしたうえで検討していただいていたのです。

  • そういえば「眩しく見える」というのは聞いたことがあります。でも、多焦点眼内レンズが認可されてからもう10年以上経っていますよね。それらのデメリットは今どうなっているのでしょうか?

  • その後、多焦点眼内レンズは、近く・遠くに加えて中間まで見える「3焦点」や、ボヤける部分なく連続的に見える「焦点深度拡張型」や「連続焦点」が登場しました。今もさらに性能がアップしています。グレア・ハローなどのデメリットを解消しつつ、さらに特徴的な機能を付加した製品が次々と発売されて、現在では20種類以上から選べるようになりました。ただし選択肢が豊富になった分、各製品の取り扱いが難しくなりました。多焦点眼内レンズの性能を最大限に引き出すことができない医療機関が現れてしまい、結果として手術後のクレームが増えているのが現状です。

  • 多焦点眼内レンズが高度に進化した分、複雑になって、新たな問題が生じるようになったのですね。どのようなクレームがあるのでしょうか?

  • やはり見逃せないのは「遠くも近くも、その中間もよく見えるようになるというから期待していたのに、全然そうではなかった。むしろ手術前より見えにくくなった」というケースが少なからず起きているという点です。これは、先ほど述べた「かつての短所」が影響しているというよりも、種類が豊富になったために「適切な使用」ができていない医療機関が出ていることが原因と言えるでしょう。多彩な機能や特徴を引き出すには、各多焦点レンズについての「知識」や、それを引き出すための「執刀医の経験や腕前」はもちろん、患者さんごとに異なる目の特徴や差異を把握するための「最新の検査機器」、さらに患者さんのライフスタイルに合ったレンズを決定するための「カウンセリング」が必要です。ところが、どれかが欠けているにも関わらず、眼内レンズだけ多彩な機能を備えたものを選んでしまったり、オススメしたりする医療機関が存在するのですね。

  • 患者としては「お医者さんがオススメするなら…」と思う気持ちもありますし、何より医師を信頼して選んでいるわけですから、それは困りますね。多焦点眼内レンズの「不適切な使用」には、どのようなケースがあるのでしょうか?

  • 以前は「乱視」が多焦点眼内レンズにおける不適応の筆頭でした。乱視に気が付かずに多焦点を入れると、術前よりも乱視が顕著になったり悪化したりするリスクがあったのです。近年は乱視に対応した「トーリックレンズ」が登場して、乱視に適応できるようになったので、このようなトラブルは激減しています。ただし同じ乱視でも、不正乱視の場合は、多焦点レンズの適応になりません。こういった乱視を事前の検査で見逃してしまうと、手術前より視力や見え方の質が低下する恐れがあります。
    ほかにも瞳孔径が小さかったり、あるいは黄斑変性など網膜の中心部に疾患があったり、進行した緑内障がある場合にも「多焦点眼内レンズ」の持つ本来の性能を引き出せず、期待通りの見え方にならない場合があります。
    でもご安心ください。最近は術前の検査で、適応かどうか精査することが可能です。

  • なるほど。間違ったレンズを選んでしまう原因は様々あって、「防げるはずのトラブル」を起こさないためにも、各眼内レンズに応じた知識や最新の検査機器などが欠かせないのですね。

  • そのとおり。これまでのご説明を踏まえて「多焦点眼内レンズが結果的に合わなくて、マイナス面が出現してしまうケース」を整理すると、次の3つに集約されます。

    ①本来、適合しない目に「多焦点眼内レンズ」を用いたとき
    ②多機能で特徴的な眼内レンズの性能を引き出せる条件が整っていないとき
    ③多焦点眼内レンズにありえる一般的な副症状を患者さんが容認できないとき

    以上のようなケースが仮に出てきた場合、視力を補正する治療を行ったり眼内レンズを入れ替えたりなどの対処法があります。とはいえ、やはりたった1回の白内障手術で満足のいく結果になることが望ましいですよね。そのためには適切な適応診断と、豊富な選択肢のなかから「最もよく見える眼内レンズ」を選び抜くこと、手術前の十分な説明によって、患者さんの納得とご理解を得ることが重要です。当院でも日々励行し、徹底しています。

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