白内障は自覚しにくいと聞きました。でも会社の健診を受けていれば安心ですよね?
ご相談者様
白内障が気になる年齢になってきました。でも勤務している会社で毎年健診を受けていて、そのなかに眼科検診があります。白内障になったとしても年1回は検査の機会があるわけですし、気づかないうちに進行してしまった…という事態にはならないですよね。「早期発見が大事」と聞きますが、わざわざ自分でこまめに検査しに行く必要はないかなと思っています。
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率直なご質問をありがとうございます。ご質問の件に関して、私からもたびたび皆さんに呼びかけているのですが、まだまだ不十分なようですね。大事なことなので、最新の知見を含めつつ、この機会に改めて訴求したいと思います。まず会社の健診で白内障を早期発見できるかというと、実はほぼ難しいといわざるを得ません。
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えっ、そうなのですか? てっきり「できる」とばかり思っていたのですが…。
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企業健診の眼科検診にはいくつか実施項目があって、どのようなオプションを取るかは各社まちまちです。実際のところ、近視や遠視、乱視などを見つける視力検査だけを行う会社が多いですね。緑内障を調べる眼圧検査や、網膜の血管の具合をみる眼底検査などもありますが、それらを実施しているところは意外と少ないのです。しかし、実はそれらの検査では白内障を発見することができません。水晶体の混濁の具合を診るには、顕微鏡を使って直接観察する「細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査」が必要です。
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初めて聞きました。どのようなことをするのでしょうか?
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細いスリット状の光を当てて、透明な水晶体の内部まで観察する検査です。少しまぶしいですが、痛くもなんともない検査です。まずは企業健診を受けて、なんらかの異常や兆候があれば、要精密検査として日と場所を改めて受けることになります。こういった順序になるので、未経験の人も多いでしょう。
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私も受けた覚えはないですね。でも、そもそも白内障を早期発見する意味はあるのでしょうか? 年を重ねれば老眼になりますし、白内障で見えにくくなるのも仕方がないのかな、と思います。
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早期発見をする意味はもちろんあります。とりわけ40~50代と若い年齢で発症し、進行も早い場合、その意義は大きいといえるでしょう。白内障は治らない疾患ではありません。手術をすることで、白内障だけでなく近視や遠視、乱視、老眼など、不満を感じていらした見え方を改善することができます。若い年齢の人ほど、早期発見・手術によって「クリアな視界」をより長く享受することができます。これが最大の意義です。
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「クリアな視界」をより長く享受できるのですね。ただ本音をいうと、私は昔から視力が悪いために見えにくい状態に慣れてしまっていて、逆にピンと来ません。他にメリットはないのでしょうか?
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まだまだありますよ。たとえば最近では、白内障手術がもたらすアンチエイジング効果についての論文が大変注目されています。まだエビデンスが不足していますが、きちんとした研究による情報です。私も白内障の眼科医としてとても励まされています。
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アンチエイジングとは具体的にどんなことを指していますか?
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白内障手術で「よく見える状態」を取り戻すことにより、日常のなかでの姿勢制御や、運動時の姿勢制御が改善されるのです。バランスがよくなれば、高齢者にとっては転倒の防止になりますし、若い人であれば日常生活がよりアクティブになるという副次効果も期待できるのではないでしょうか。目をつむって片足をあげてみると、すぐバランスを崩してしまいますよね。このことから、バランス調整には「見える」という状態がとても重要だとわかります。また、論文では、身体がアクティブになると脳機能や精神機能の向上にもつながってくるとも示唆しています。
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単に「見え方」が改善されるだけではないのですね。研究が進めば、他にもメリットが判明しそうな気もします。私も早期診断に努めて、もし診断されてもあまり悲観することなく、前向きに手術に臨みたいと思います。